特別列車



昨日むちゃくちゃ怖い夢を見た。 
せっかくだから、これをモチーフに
短編を書いてみた。

-- 特別列車 --

家に帰るのに電車を待っていると、
いつものホームにはお座敷列車の結婚式版
のような特別列車が停車していた。
接続する車両は招待客が乗っていて、
新郎新婦がが各車両を移動しながら結婚
披露宴をするようだ。
構内アナウンス

「一般座席が空いてるので一般のお客様
も乗車してかまいません」

何両目か以降の車両は結婚式とは関係ない
らしい。
その時、車窓からウェディングドレス姿の
花嫁がちらりと見えた。なぜか床に寝ている
ように見えたのは俺の気のせいか。
その時、発車のベルがなった。
俺は思わず乗り込んでしまっていた。

乗り込んだその車両は家族連れのよう
だったが、彼らも結婚式とは関係ない
らしい。3歳くらいの男の子の手から
ボールが足元にころがった。それを
6歳くらいの姉が遠くへ蹴りあげた。
それを見て弟が泣き出し、両親が姉を叱る。

列車が動き出した。すぐに速度が増した。
外を見ると、特急か、いや新幹線並みの
速度で列車は走っている。
しばらく窓の外を眺めていた。
海岸沿いを走っているようだ。
ふと俺の頭に馬鹿馬鹿しい疑問が浮かん
できた。
そういえば俺のうちってなんだ、どこに
いったい帰るんだったっけ? 
なんとなく乗り込んでしまったが、
これはどこ行きの列車なんだ?

時計を持っていないから何時かわからないが
外の景色から、夕方の4時くらいだと思う。
軽い記憶喪失な頭を振りながら、俺は車内
を見渡した。壁のポスターに目がいった。

「ハネムーンエクスプレス」

これがこの列車の名前。
どうも東北経由で青森の方が目的地らしい。
...まいったな、今思い出したが俺の家は新潟
じゃないか。どっかで降りないと今日中に
帰れなくなる....

暫くして列車が停車した。
ドアが開くと降り口はプラットホームから
大分外れていて、しかも洪水のようにあたり
は一面の水たまりになっている。
...なんだこれは?....
あっけにとられていると、ドアがしまり、
列車が再び動き出す。
すると車内アナウンス、

「つぎの停車駅までに車掌室へ生け贄を
お届けください。今回の生け贄は
一名。以上」

何て言った? 
生け贄ってなんだ?
俺はポスターをもう一度見た。
更によく顔を近づけて細かい説明書きを
読んだ。
文章が支離滅裂で頭に入ってこない。
違う、もしかするとおかしいのは俺の頭の
ほうなのか?
びっしりと書かれた文字は、読みなれた
日本語ではなくすべてが梵字だった。
落ち着け、落ち着け。
なぜかよくわからないが、読めるわけのない
梵字で書かれたその説明書きを俺は読んで
いた。

この列車は停車駅ごとに
「生け贄を捧げながら」旅を続け、
最終目的地は..........地獄

ハネムーンなんかいう甘ったるいタイトルは
もはやどこを見ても見つからない。
生け贄....乗客....俺たち.....
まてよ、そういえばこの列車乗るとき
ちらっと見えた横たわる花嫁、あれはすで
生け贄として殺されたってことか?
やばい。非常にヤバイこの状況。
それにしてもほかのやつらのこの落ち着き
ようはなんだ? 停車駅ごとに人が殺される
んだぞ。 なんで落ち着いていられるん
だお前ら?! 
それともこれは何かの冗談だっていうのか?

俺も努めて冷静さを装うことにした。
車窓からの景色。すでに海岸というより
も、もはや完全に海の上を走っている。
それはどう考えても尋常じゃない。
俺はこの状況をどう解釈しようか脳みそを
しぼりつづけた。

しばらくすると列車が停車して
ドアが開いた。もはやプラットフォームも
なく、列車が停車しているのは海の
ど真ん中だ。360度海の上。
当然ながら降車する者はいない。
そして再びドアは締まる。
車内アナウンス。

「つぎの停車駅までに車掌室へ生け贄
をお届けください。今回の生け贄は
二名。以上」

俺はすぐにトイレに逃げた。鍵をかけた。
あまり賢い方法ではないとわかっているが
人殺しがあっても平然としているあいつら
から少しでも距離を置きたかったのだ。
次の停車駅までに二人殺される。
誰がどこで誰をどうやって、いつ殺す?
やばい、とてつもなくヤバイ状況だ。
なんでこんなことになった? いや、
そんなことはもはやどうでもいい。
逃げる。この列車から逃げる。どうやって?
脱出したあとは? 海、島は? 陸地は?
思考しろ、考えろ、止めるな。

しばらくするとまた列車が停まった。やはり
誰も降りないし乗ってくるやつもいない。
いるわけがない。
窓の外はすでに日が暮れかけて、凪いだ
海面を赤く染めていた。

また列車が動き出す。つぎのアナウンスは
聴かなくてもわかっていた。
つまり次は死体を三体用意しろってことだ。

さっき二人、誰かが殺された。
これから三人。誰かが新たに殺される。
イズレ、コロシアイガハジマル......

トイレのドアが激しくノックされた。
こんなとき、武器でもあればよかったが、
あいにく金属製の持ち物といえば、
小銭くらいしか持ってなかった。
なんとか武器にならないか思考を凝らしたが
無理だった。
俺は仕方なくドアを開けた。

そこには貧相な50年配の男がたっていた。
男は自ら名乗りもせず、俺の名も聞かず、
一方的にこう言った。

「次の生け贄は、私たちで3人狩らなけ
ればなりません。わかっている
と思いますが、次の停車駅に間に
合わなかったり、またはこのゲームを
逃げたりしたら、あなたも私も相当の
報いをうけることになるでしょう。
外を見てお分かりの通り、
途中下車などできないのです。

ね、そんなことを考えるのは意味が
ありません。あなたに選択の余地は
ありません。
これから作戦会議をしましょう。

三人だけです。難しいことではありま
せん。大丈夫です、私に任せてく
ださい。あのアナウンスは.....
これから先、生け贄になる者には聞こ
えていません。我々は後ろからそっと
近づいて獲物に、これを....」

男は小指大のインフルエンザ予防接種の
ような注射器を取り出した。
透明の液体が満たされていた。

...ふん三人「だけ」だと? 大体次の
停車駅って、海の上じゃねぇか。
ふざけるな
これからいくつの停車駅があるの
か知らんが、どんどん生け贄が一人づつ
増えてったら最後は誰もいなくなるん 
じゃないか? ...コロシアイ....
いや最後に殺す側のやつが生き残る、
か。

俺は心の中で毒づいた。

男は得意気に次の標的、襲う場所など説明を
続けた。
うだつの上がらないサラリーマンのような
風貌。粘りつくような甲高い声。
染みのついたネクタイ。
いったいこいつは何者なんだ?なぜ俺と
ペアを組む? こいつは俺の味方なのか?
敵なのか? 
そもそもなんなのだこの生け贄ゲームは?
俺たちはいったいどうなる?
聞きたいことは山ほどあったが、
俺は平静さを装った。

....そしてひとつの決断をした。

男が古びた手提げ鞄からスペアの注射器を
取り出そうとした瞬間、
俺はそいつを突き飛ばし、
別の車両へ一気に走った。
男は尻餅をついて、鞄の中身が床にぶち
まけられたような音が聞こえた。

ひとつでも遠くの車両へ俺は走った。
外は海。列車も今、海の上を滑るように
走っている。ひたすら地獄へと....
あいつが追いかけてきた。
ゆっくり歩いている。どうせ俺には逃げ道
などない。走る必要などないからだ。
きっと鬼の形相をしているはずだが、
振り返る必要も時間もない、殺される。

俺は必死にドアを
こじ開けてみた。びくともしないが、
空圧ピストンで閉じてるだけだ。
指さえ入れば....
指が震えてうまく力が入らない。
おまけに脂汗が指先にまで垂れてきた。
殺されたくない。なんとか少しだけ。
指先だけでも... 爪が剥がれそうだ...
.......................
....入った!人差し指だけで、渾身の力を
振り絞ってドアを開けた!
漆黒の闇。
ひょっとするとこっちが地獄かもしれない。
もうどうでもいい
そのまま海に飛び込んだ。
やつの怒号が聴こえたような気がしたが、
俺はとにかく泳ぎまくった。
とにかく距離を、そして体力の限り....


3:00am


枕元に置いた目覚まし時計の表示。

しばらくベッドの上で天井を見つめていた。
....助かった。俺は助かったのか? 
最後にあの男の叫んだ言葉、

「(俺たちも)一緒に連れていってくれ!」

そう聞こえたような気がする。今は。
あの男はどうなるんだろうか?
あのままあの列車にのっていたら、
果たしてこっちの世界に戻れたんだろうか?

今でも鮮明に記憶に残ってる。
だから、これを書き留めている。

本当にあれは夢だったんだろうか?....
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